産物商襲撃 第七話 ウキネ

「ど、どうしよう・・・・」
産物商の娘、うきねは途方に暮れた
最近、京の都に流行しだした服
「染抜長絹」
着てみたかった 乙女心---好奇心。
見られたくなかった 乙女心---羞恥心。
立場を利用し蔵の中で着てみようと思い蔵へ入ったまではよかったが、見られたくないので誰にも
蔵へ入る事をしらせていなかった為、外から施錠されてしまう
そこへ突如現れた招かれざるもの----強盗
咄嗟に雑穀わらの山に身を潜めた
「インペリアルジェイド!」
異国の言葉が聞こえた
そして轟音
どさりと眼前に落ちてきて気を失っている泥棒
泥棒の持っていた大袋からヒスイが零れ落ちている
とりあえず取り返し、大乗依に隠した。
「泥棒さん死んじゃう・・・」
たとえ悪人であろうと、医を志すからには見捨てられなかった
薬師の技、目の前の泥棒の傷が癒えてゆく
あとは治身丹、しかし目の前の泥棒は自力でそれを飲み込もうとしない
「お薬・・・・」
誰も見ていないであろう蔵の中、それでも辺りをキョロキョロと伺う
清水と丹を口に含む、暗闇の中で唇が接近した、治身丹が移動して泥棒がそれを飲み干した
やがて回復するであろう賊が目を覚ます前に逃げようと思った
不意に頭と腰を押さえつけられる、口は塞がれて助けは呼べない
だが、どこか心地よかった、そのままにした。
泥棒は大乗依を脱がしてきた、全力で抵抗するも敵わない
全て脱がされてから解放された
「大声は出すな、誰か来たらその格好を見られる」
「逃げ出してもその格好を見られる」
言いながら大乗依に隠されたヒスイを取り返す賊
「うきねだな?なぜこんなところにいる?」
産物商を襲おうなどと大それた事を考えるくらいの賊だ、自分の事も調べられているのであろう
「あたしをどうするおつもりですか?」
「答えになってないぞ」
賊は笑顔で言った、精悍な武者や凛々しい神主、険しい陰陽師、そのどれとも違う笑顔
なぜか不安が消えた
「染抜長絹、、着てるとこ見られたくなかったから、、隠れて、、着てみようと、、」
ここが暗闇でなかったら赤面しているのを悟られただろう
「なぜ見られたくない?」
「色気・・・ないから・・・今まで、殿方に見つめられた事もありません・・」
自分が泥棒にこんなことを話しているのが不思議だった
「それはお前、眩しいからさ、太陽を見つめる事はできない」
あたりが騒がしくなる、警護たちがここに向かってくるのがわかる
「隠れてください」
自分のしている事は理解しているつもりだった、奪われた大乗依の替わりに染抜長絹を着た
警護達が閂と鍵を外し戸を開けた
「うきね殿?」警護達が困惑していた
「ここは無事です、賊に襲われると聞いて安全なここに匿ってもらいました」
外では産物商が瓦礫の山となっていた
「左様で御座ったか」警護が言った
「誰も近づかぬよう警備を怠らずにお願いします、鍵を忘れずに」
扉は閉められ、外で施錠される、内ではうきねが閂をかけた
「いきましたよ」
雑穀わらの山から賊が現れる

壁を登り梁を伝い矢切から脱出しようとしている賊、こちらに向かって小さな袋を投げてきた
受け取って中を覗いて見ると大小様々な三十個ほどのヒスイが入っていた
「盗まれた事にして貰っとけ」笑顔で言った

「それから・・染抜長絹似合ってるぞ」
月を背中に言った泥棒は今まで京の都で見たどんな男よりも眩しかった、言い終えると飛び降りて泥棒は去っていった

「抱いて・・・くださらないのですね・・・」
ヒスイの入った袋を握り締めてうきねは言った


泥棒は、うきねの心を奪って云った



<つづく>