妖魔陣

今日、私のところに僧が訪ねてきた
上杉家 僧 飛鳥井左京
父の戦友らしい
「ドブお客様よ」母の声に呼ばれ、朱紐をつくる一連の作業を中断し振り向く
母は悲しげな顔をしていた
「お父様は妖魔陣で死んだ」死というものについてはよく理解しているつもりだった
だが実感はなかった。
「坊主、君の話は何度も聞いた」身の丈、六尺以上あろうかという仏門僧は言った
「私は君の父上の友人でね、五年以上妖魔陣の地獄に閉じ込められていた」
「君には経験させたくない」首を左右に振り、静かに仏門僧は続ける
「5年・・・妖魔陣では時の流れが違ってね、もどったら5日しかたっていなかったよ」
「だが、そんな長い時間、男が一緒にいるとね、、相手への責任を感じはじめる」
「おれが死んでいたら、」少し間を置き母の顔を覗きまたこちらへ向き直ってつづける仏門僧
「天神山中老がおれの息子を訪ねてるだろう」誇らしげに言う仏門僧
「だが、おれが生き残った」
「ドブ、渡す物がある」部屋の隅にあった小さな椅子を引き寄せ私の正面に、それこそ衝突しそうなくらいの距離に座る、大袋から何かを取り出す僧
「君の父さんが川中島の合戦の時に買った竜の涙だ」
「当時は青龍から涙をとるのが主流でね、竜の涙はとてもめずらしかった」左京中老が懐かしそうに語る
「天神山中老は、生きて帰ったらこいつを兜にとりつけると言ってね、肌身はなさず持っていた」
「務めを果たして春日山へ帰ると、こいつを屋敷の箱にしまってね」
「取り付ける付与石が無くてね、お父さんはいつも川中島へこれを持っていっていたよ」
「こいつを持っていると、なぜか敵徒党に囲まれても生還できたよ、幸運の宝石だ」
左京中老は笑って言った
「そして、今回の妖魔陣だ」顔が険しくなる
「俺とお父さんは巨大な妖魔の一撃をくらい、徒党は壊滅。気が付くと妖魔どもの陣に囚われていた」
竜の涙を触りながら僧は語る
「妖魔どもが、こいつを見つけたら奪われちまう」
「手放せるか?大事な宝石を敵の汚い手に渡せない!」
落ち着きを取り戻し僧は続ける
「隠し場所はケツの穴しかなかった」
「2年半ケツの穴にこいつを隠しつづけた」
「お父さんは赤痢で死ぬ前、こいつを俺に託し」
「おれは2年半ケツの穴に隠した」
「5年の苦労の末、今回の足利家の妖魔陣で帰還」

今日-----
君にこれを渡しに来た

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父の十字槍を手に取る
「そうだドブ!」左京が言う
父の涙をケツに入れようとする
「・・・・・・・・・・ドブ、、、、だめだこいつ。」飛鳥井左京は絶望に打ちひしがれ力尽きた。