屋骨骸京右

京の都、商業の拠点左京を離れひっそりと商いを行う一人のくたびれた老兵
官位申請にやって来た諸国の武人、名のある術士が売り物を見て廻る
「どれもボッタくりの割にシケた売り物ばかりだな、なんだこのボロ槍は」
武芸侍が言った
そこへ現れた飛鳥井左京
「そこな武人、さぞ名のある方とお見受け致す、ひとつ拙僧と手合わせ願う」
武芸侍は腰に挿された二本の刀を抜いた、どちらも新品の太刀
「田舎ものが!刀の試し切りにしてやる!」
「仕合いだ!仕合いだ!」
「デカイ僧に1貫!」「侍に10貫だ!」
湧き上がる群集をよそ目に老兵の売り物に目をやるドブ鼠
気になる品が一品
ボロボロの十字槍、あちこち刃こぼれした穂先の刃、幾多の武人を殴ったであろう長柄、血の滲んだ柄に刻まれた銘
「とっと小太郎・・・・」
「坊主、そいつの良さがわかるかい?」
廻りの喧騒をよそに静かに老兵が言った
「そいつは越後の鍛冶屋が、ここ右京の刀鍛冶に依頼して打たれた槍さ」
「鍛冶屋が鍛冶屋に依頼する、その意味がわかるか?」
老兵は僧と侍の決闘に目をやる、勝負は一瞬だった
南無阿弥陀仏
念仏を唱え終わると左京はこちらへやってきた
「老師、すばらしい槍をお持ちで」
左京は言った。
「ドブ、武器はなにも新品がいいわけじゃない、もちろん付与でもない」
「そこに、どれだけの心が詰まっているかだ!敵を倒すのは心だ!」
老兵は言う
「鍛冶屋が自ら材料を拾い集め厳選し、幾日も炉に篭り命を削って打った武器だ」
「数多の戦場を鍛冶屋と共に戦い、共に妖魔を討った武器だ、そこには2人の男の心が詰め込まれている」
「どこぞの馬の骨に売れる品じゃないわな、、、だが、やっとこの槍を託せる男が、、」
老兵は自らの命が僅かであることを知っていた
「ドブ、受け取れ」
 
 
「すみません、無銘金砕棒ください。あ、分割払いで。」

・・・・老兵は息絶えた。